人探しをSNSで拡散する危険性
個人情報流出と名誉毀損のリスク

大切な人が行方不明になったとき、SNSで情報提供を呼びかけたくなるのは自然な気持ちです。実際、拡散がきっかけで発見に至った例もあります。しかし同時に、取り返しのつかない被害を生む可能性もあります。判断する前に、何が起こり得るのかを知っておいてください。

監修者 戸塚敦士
監修

戸塚敦士(代表取締役・人探し専門探偵)

株式会社オブザーバー / 東京都公安委員会 探偵業届出 第30070036号

1995年の創業以来、所在調査を専門に従事し、これまで3,000件以上の人探し調査を解決。TBS「1億分の8」でスゴ過ぎる探偵として選出、テレビ東京「もう一度うちの子に会いたい」出演。本記事は実際の調査実務にもとづいて執筆・監修しています。

拡散には確かに効果がある。しかし条件がある

最初に公平を期して申し上げます。SNSでの拡散が発見につながることは実際にあります。特に、次のような条件が揃った場合は有効です。

  • 行方不明になった直後で、まだ移動距離が限られている
  • 特定の地域に絞って呼びかけられる
  • 本人に危険が及んでいる可能性が高く、緊急性がある
  • 警察に届け出た上で、警察とも情報を共有している

問題は、これらの条件を満たさないケースでも安易に拡散が行われ、その結果として深刻な二次被害が生じている点です。

リスク1:情報は削除できない

最も重大なリスクです。一度インターネット上に投稿された顔写真と氏名は、事実上、完全に消すことができません。

投稿は数分でスクリーンショットに撮られ、まとめサイトに転載され、検索エンジンにキャッシュされます。元の投稿を削除しても、転載先は残り続けます。これがデジタルタトゥーと呼ばれる現象です。

無事に発見された後に起こること

  • 本人の氏名を検索すると「行方不明になった人」として情報が出続ける
  • 就職活動や結婚の際に、過去の事情が意図せず知られる
  • 本人が家出をした理由(家庭の問題、精神的な事情など)が推測され、詮索される
  • 本人が「勝手に晒された」と感じ、家族との関係が悪化する

当社では実際に、無事に発見された後で「あの投稿を消してほしい」というご相談を受けたことがあります。しかし転載された情報を完全に削除することは、現実にはほぼ不可能です。

リスク2:誤情報による無関係な人への被害

拡散された情報にもとづいて、まったく無関係の人物が「この人ではないか」と名指しされる事態は、繰り返し起きています。

特に、防犯カメラの不鮮明な画像や、目撃証言にもとづく「似ている人」の情報が独り歩きすると、無関係な人の顔写真や勤務先が晒される事態に発展します。これは誤って特定された側にとって、深刻な人権侵害です。

そして、拡散の起点となった投稿者は、結果として生じた被害について責任を問われる可能性があります。

リスク3:名誉毀損・プライバシー侵害の成立

投稿の内容によっては、法的責任が生じます。

名誉毀損罪

刑法230条は、公然と事実を摘示して人の名誉を毀損した者を処罰対象としています。摘示した事実が真実であっても成立し得る点に注意が必要です。

たとえば「借金を残して失踪した」「不倫相手と逃げた」といった記載は、たとえ事実であっても名誉毀損に該当する可能性があります。行方不明者を探す文脈であっても、この点は変わりません。

プライバシー侵害

氏名、顔写真、住所、勤務先、家族構成といった情報を本人の同意なく公開する行為は、民事上のプライバシー侵害として損害賠償請求の対象となり得ます。

成人が自らの意思で家を出た場合

特に注意が必要なのがこのケースです。成人が自らの意思で居所を移すことは、何ら違法な行為ではありません。それを「行方不明」として全国に顔写真つきで拡散する行為は、本人の意思に反するものであり、法的責任を問われる可能性が高くなります。

DV等から避難しているケース

配偶者や親族からの暴力を逃れるために家を出た方が、加害者側からの「探しています」という投稿で居場所を突き止められた事例があります。この場合、拡散は本人の生命に直結する危険をもたらします。行方不明の背景に家庭内の事情がある場合、拡散は絶対に避けてください。

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リスク4:詐欺・悪質業者を呼び込む

行方不明の情報を公開すると、それを見た人物から「情報を持っている」という連絡が入ることがあります。その多くは善意ですが、一部は金銭目的です。

  • 「居場所を知っているが、教えるには金がいる」という金銭要求
  • 「特別なルートで調べられる」と持ちかける無届けの調査業者
  • 家族の動揺につけ込む、霊感商法まがいの勧誘
  • 個人情報を収集することが目的の、偽の情報提供窓口

藁にもすがる思いでいるご家族が、こうした相手に数十万円を支払ってしまったケースを、当社は複数見てきました。

それでも情報提供を求めたい場合

拡散を全面的に否定するつもりはありません。緊急性が高いケースでは有効な手段です。行うのであれば、次の点を守ってください。

1. 必ず警察に届け出てから行う

警察への届出が先です。届出が受理されていれば、情報提供の窓口を警察に一本化でき、詐欺的な接触を減らせます。「情報は◯◯警察署までお願いします」と明記してください。

2. 公的なチャンネルを優先する

自治体のSOSネットワーク、防災無線、地域の見守りメールといった公的な仕組みは、配信範囲が限定され、記録も残りません。認知症の方の場合は特に、これらを優先してください。

3. 掲載する情報を最小限にする

掲載してよい情報掲載を避けるべき情報
身体的特徴(身長、体格、髪型)自宅の住所、最寄り駅
いなくなった日時と場所勤務先、学校名
当時の服装家庭の事情、失踪の理由
連絡先(警察署名と電話番号)個人のSNSアカウントや携帯番号
顔写真(緊急性が高い場合に限る)家族の氏名・写真

4. 対象を絞って呼びかける

全世界に公開するのではなく、地域のコミュニティ、学校の関係者グループ、業界の知人など、実際に目撃の可能性がある範囲に絞って共有するほうが、効果と安全性の両面で優れています。

5. 発見後は速やかに削除する

発見できたら、投稿を削除し、拡散してくれた方々にも削除を依頼してください。完全には消せませんが、少しでも残存を減らすことができます。

拡散に頼らない方法がある

情報提供を求めたい理由の多くは「自分たちだけでは探しようがない」という無力感にあります。しかし実際には、拡散に頼らずに進められる調査は数多くあります。

警察への届出、自治体のネットワーク、交友関係への直接の聞き取り、公的書類による追跡、防犯カメラの確認。これらはいずれも、本人のプライバシーを守りながら実行できます。当社が行っているのも、こうした地道な調査です。

まとめ

SNSでの拡散は、条件が揃えば有効な手段ですが、失うものも大きい選択です。情報は消せず、無関係な人を巻き込み、本人が発見された後も残り続けます。

まずは警察への届出と、拡散に頼らない調査を優先してください。それでも足りないと感じたときに、掲載する情報を最小限にして、限定的に行う。この順序を守っていただきたいと思います。判断に迷われる場合は、拡散する前にご相談ください。

よくある質問

警察に届け出れば、SNSで拡散してもらえますか。

警察が公開手配として情報を公表するのは、事件性が高いケースなど限られた場合です。一般の行方不明者について、警察がSNSで拡散することはありません。自治体の見守りネットワークのほうが、現実的な選択肢です。

すでに拡散してしまった投稿を削除したいのですが。

まずご自身の投稿を削除し、拡散してくれた方に削除を依頼してください。転載先については、各サイトの運営者に削除を申し入れる、検索エンジンに削除申請を行うといった方法があります。数が多い場合は、削除対応を専門とする弁護士への相談を検討してください。

顔写真を載せずに探すことはできますか。

できます。身体的特徴と当時の服装、いなくなった状況だけでも、目撃情報は集まります。顔写真は本人への影響が最も大きい情報ですので、緊急性が高い場合に限定することをおすすめします。

人探し専門の掲示板サイトは利用してもよいですか。

SNSと同じリスクがあると考えてください。むしろ、そうしたサイトは個人情報を目的とした収集や、業者からの営業目的の接触が集まりやすい傾向があります。利用する場合も、氏名や顔写真の掲載は慎重に判断してください。

拡散を依頼された場合、協力してよいのでしょうか。

拡散する側にも、内容によっては名誉毀損等の責任が及ぶ可能性があります。警察の届出番号が明記されているか、掲載情報が過剰でないかを確認した上で判断してください。判断がつかない場合は、拡散せず本人に警察への届出を勧めるのが安全です。