「捜索願」は現在「行方不明者届」と呼ばれます
かつて広く使われていた「捜索願」という呼称は、2010年(平成22年)の行方不明者発見活動に関する規則の施行により、正式には「行方不明者届」に改められました。現在も日常会話では捜索願という言葉が使われますが、警察署の窓口で使用する書類の正式名称は行方不明者届です。
警察庁の統計によると、行方不明者届の受理件数は年間およそ8万〜9万件で推移しています。このうち大半は比較的短期間で所在が確認されますが、届出の区分によって警察の対応は大きく変わります。
届出ができるのは誰か
行方不明者届は、誰でも自由に出せるわけではありません。行方不明者発見活動に関する規則により、届出人となれるのは次の範囲の方とされています。
- 行方不明者の親権を行う者、後見人その他の法定監護義務者
- 配偶者(内縁関係にある者を含みます)
- その他の親族
- 同居している者
- 雇主など、社会生活において密接な関係を有する者
友人や恋人は、原則としてこの範囲に含まれません。ただし同居している場合や、雇用関係など密接な関係が認められる場合は届出人になれる余地があります。判断は個別の事情によりますので、まずは警察署に電話で相談してください。
届出人になれない場合はどうするか
本人の親族に連絡を取り、届出をしてもらうのが原則です。親族と連絡が取れない、あるいは親族が届出に消極的といった場合は、警察に届け出るという選択肢自体が使えません。この場合は探偵など民間の調査機関に相談することになります。
どこに届け出るか
届出先は、次のいずれかの警察署または交番・駐在所です。緊急を要する場合は110番でも受理されます。
- 行方不明者の住所地を管轄する警察署
- 行方不明者の居所地を管轄する警察署
- 届出人の住所地または居所地を管轄する警察署
- 行方不明となった場所を管轄する警察署
実務上は、届出人が最も行きやすい警察署で構いません。受理された届出は全国のシステムに登録されるため、どの署で出しても全国の警察が照会できる状態になります。
「まだ早い」と言われても引き下がらない
24時間経たないと受理されない、というルールは存在しません。むしろ、事件性や生命の危険が疑われるケースでは初動の速さが決定的に重要です。窓口で消極的な対応をされた場合は、後述する特異行方不明者に該当しうる事情(遺書がある、認知症がある、持病の薬を持たずに出た、未成年である等)を具体的に伝えてください。
届出に必要なもの
手ぶらで行っても受理はされますが、次のものを持参すると手続きが早く進み、その後の捜索にも役立ちます。
| 持ち物 | なぜ必要か |
|---|---|
| 届出人の本人確認書類 | 運転免許証、マイナンバーカードなど。届出人の資格確認に使われます |
| 行方不明者の写真 | できるだけ最近のもの。正面から顔がはっきり写っているものが理想です |
| 行方不明者の身体的特徴のメモ | 身長、体重、血液型、傷跡、ほくろ、歯の治療痕、入れ墨の有無など |
| いなくなった当時の服装 | 上下の色や形、靴、持ち物。防犯カメラ照会の手がかりになります |
| 携帯電話番号・SNSアカウント | 契約者情報や利用状況の照会に用いられる場合があります |
| 自動車の情報 | 車を使って移動した可能性があれば、ナンバーと車種・色 |
| 遺書やメモ | 自殺のおそれを示す資料は、区分の判断に直結する重要な資料です |
特異行方不明者と一般行方不明者の違い
ここが最も重要な点です。届出を受理した警察は、その事案を「特異行方不明者」と「一般行方不明者」のいずれかに区分します。この区分によって、その後の警察の動き方が根本的に変わります。
特異行方不明者に該当する場合
次のいずれかに該当すると判断されると、特異行方不明者として、警察が積極的に発見活動を行います。捜索隊の編成、防犯カメラの解析、携帯電話の位置情報の照会など、警察の権限にもとづく捜索が実施されます。
- 殺人、誘拐、人身取引などの犯罪により、生命または身体に危険が生じているおそれがある
- 遺書があるなど、自殺のおそれがある
- 水難、交通事故、山岳遭難など、事故に遭っているおそれがある
- 精神障害の状態にあり、自身または他人を害するおそれがある
- 病気、高齢、年少その他の事情により、保護を必要とする
一般行方不明者と判断された場合
上記に該当しない、いわゆる自らの意思による家出などは一般行方不明者として扱われます。この場合、警察は届出を受理して情報を登録し、職務質問や交通違反の取り締まりなどの際に照会がヒットすれば発見に至る、という運用が中心になります。積極的な捜索は行われないのが原則です。
つまり「届け出たのに何もしてくれない」という不満の多くは、事案が一般行方不明者に区分されていることに起因します。警察が怠慢なのではなく、成人が自らの意思で居所を移すことは違法ではないため、公権力が介入する根拠がない、という制度上の理由です。詳しくは「警察と探偵の違い」で解説しています。
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届け出るときに伝えるべきこと
区分は届出時の情報にもとづいて判断されます。したがって、生命や身体への危険を示す事情がある場合は、遠慮せず具体的に伝えることが重要です。次のような事情は必ず口頭でも伝えてください。
- 「死にたい」といった発言や書き置きがあった
- 持病があり、常用している薬を持たずに出ている
- 認知症の診断を受けている、あるいは徘徊の前歴がある
- 多額の借金があり、金銭トラブルを抱えていた
- 直前に見知らぬ人物と接触していた形跡がある
- 未成年である、あるいは高齢である
発見されても居場所を教えてもらえない場合がある
警察が行方不明者を発見しても、本人が自らの意思で家を出ており、かつ届出人への連絡を拒んだ場合、警察は「無事は確認された」とだけ伝え、居場所は開示しません。これは本人のプライバシーと安全を守るための運用です。この結果に納得できない場合、民間の調査で所在を確認するという選択肢が残ります。
届出後にやっておきたいこと
警察に届け出たら終わりではありません。並行して、次の対応を進めておくと発見率が上がります。
1. 届出受理番号を控える
受理番号は、後日の問い合わせや、金融機関・携帯電話会社への手続きで必要になる場合があります。担当した警察官の氏名と所属も一緒に控えておいてください。
2. 情報の更新を都度伝える
新たにわかったこと(目撃情報、SNSの更新、クレジットカードの使用履歴など)があれば、その都度警察に連絡してください。情報が追加されることで区分が見直され、特異行方不明者に切り替わることもあります。
3. 自力での調査を並行する
一般行方不明者と判断された場合、警察の照会だけで発見に至るには相当の時間がかかることがあります。交友関係の聞き取りや、公的書類による住所の追跡など、自分でできる調査は並行して進めるべきです。
まとめ
行方不明者届は、出しておくべき手続きであることに変わりはありません。発見時の照会にヒットする可能性が生まれ、事件性が判明した場合に即座に捜査へ移行できるからです。届け出ないという選択肢はありません。
一方で、一般行方不明者と区分された場合、警察が能動的に探してくれるわけではないという現実も理解しておく必要があります。届出と並行して、民間の調査を検討することが早期発見につながります。当社では、警察に届け出た段階からのご相談も数多くお受けしています。
よくある質問
行方不明者届に費用はかかりますか。
かかりません。届出は無料です。手数料や書類代を請求されることもありません。
行方不明者届を出すと、本人に通知が行きますか。
届出があったこと自体が本人に通知されることはありません。ただし、発見された際に警察から本人へ、家族が届出をしている旨が伝えられます。その上で本人が連絡を拒否した場合、居場所は届出人に開示されません。
届出を取り下げることはできますか。
できます。本人が帰宅した、あるいは所在が判明した場合は、速やかに警察へ連絡し、届出の取下げ手続きを行ってください。登録が残ったままだと、本人が職務質問等を受けた際に不要な確認が生じます。
友人が行方不明ですが、家族と連絡が取れません。届出はできますか。
同居していた、雇用関係にあったなど、社会生活上の密接な関係が認められる場合は届出人になれる可能性があります。まずは警察署に事情を説明して相談してください。届出人の要件を満たさない場合は、民間の調査機関への相談を検討することになります。
行方不明者届を出してから、どのくらいで見つかることが多いですか。
警察庁の統計では、所在が確認された行方不明者のうち相当数が受理から1週間以内に発見されています。ただしこれは特異行方不明者を含めた全体の傾向であり、一般行方不明者として登録されたケースでは長期化する例も少なくありません。