音信不通の相続人を探す方法
遺産分割が進まないときの3つの選択肢

遺産分割協議は、相続人が1人でも欠けていると成立しません。連絡の取れない相続人がいるために手続きが何年も止まっている、というご相談は当社でも定期的にお受けします。この記事では、所在を突き止める方法と、どうしても見つからない場合に法律が用意している解決策を整理します。

監修者 戸塚敦士
監修

戸塚敦士(代表取締役・人探し専門探偵)

株式会社オブザーバー / 東京都公安委員会 探偵業届出 第30070036号

1995年の創業以来、所在調査を専門に従事し、これまで3,000件以上の人探し調査を解決。TBS「1億分の8」でスゴ過ぎる探偵として選出、テレビ東京「もう一度うちの子に会いたい」出演。本記事は実際の調査実務にもとづいて執筆・監修しています。

なぜ相続人が1人でも欠けると進まないのか

遺産分割協議は、共同相続人全員の合意によって成立します。1人でも参加していない協議は無効であり、その内容で不動産の名義変更や預貯金の払戻しを行うことはできません。法務局も金融機関も、相続人全員の署名押印と印鑑証明書を求めるためです。

したがって、疎遠になっている異母きょうだいや、何十年も音信不通の叔父といった相続人がいる場合、その方を探し出すことが手続きの前提になります。

放置するとどうなるか

  • 不動産の名義が被相続人のままとなり、売却も担保設定もできません
  • 2024年4月から相続登記が義務化され、正当な理由なく3年以内に登記しない場合は10万円以下の過料の対象となります
  • 時間の経過とともに相続人がさらに死亡し、その相続人へと権利が細分化していきます(数次相続)
  • 相続税の申告期限は死亡を知った日の翌日から10か月であり、分割未了のままだと配偶者の税額軽減などの特例が使えません

特に数次相続は深刻です。当初4人だった相続人が、10年放置した結果20人以上に膨れ上がっていたというケースは実際にあります。早く着手するほど解決は容易です。

ステップ1:相続人を確定させる

まず、誰が相続人なのかを法的に確定させる必要があります。これには被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍をすべて集めます。

  1. 被相続人の死亡時の戸籍(除籍謄本)を、最後の本籍地で取得する
  2. その戸籍の従前戸籍をたどり、順次さかのぼって出生時の戸籍まで集める
  3. 各戸籍から、子・養子・認知した子の有無を確認する
  4. 子がいない場合は、直系尊属、さらに兄弟姉妹へと順位が移るため、その分の戸籍も収集する

この作業で、生前まったく知られていなかった相続人が判明することは珍しくありません。前婚の子、認知した子、養子といったケースです。

戸籍の広域交付制度

2024年3月から、本籍地以外の市区町村の窓口でも、本人・配偶者・直系尊属・直系卑属の戸籍謄本をまとめて請求できるようになりました。これにより、複数の自治体に郵送請求を繰り返す手間が大きく減っています。ただし兄弟姉妹の戸籍は対象外であり、コンピュータ化されていない一部の古い戸籍も対象外です。

ステップ2:所在を追跡する

相続人が確定したら、その方の戸籍の附票を請求します。附票には住所の履歴が記録されているため、最後の記載が現在の住民登録地です。

ただし、相続人が兄弟姉妹や甥姪の場合、直系血族ではないため第三者請求となります。この場合は「相続手続きのため」という正当な理由を疎明する必要があり、被相続人の除籍謄本や、自分が相続人であることを示す戸籍を添えて請求します。

相続人との関係戸籍・附票の請求必要な疎明
子・孫(直系卑属)直系血族として請求可関係を示す戸籍のみ
父母・祖父母(直系尊属)直系血族として請求可関係を示す戸籍のみ
配偶者請求可婚姻関係を示す戸籍
兄弟姉妹・甥姪第三者請求相続関係を示す戸籍一式と請求理由

住民登録地が判明したら、手紙を送って連絡を試みます。ここで返事があれば解決です。返事がない、あるいは宛先不明で返送される場合は、現地に居住実態があるかを確認する必要があります。

ステップ3:住民登録地に住んでいない場合

住民票を移さずに転居している方は相当数います。この段階からは書類では追えないため、現地調査に移ります。

  • 登記情報から、その住所の建物の所有者を確認する
  • 近隣への聞き込みで、いつごろ転居したか、転居先の情報がないかを確認する
  • 旧勤務先や、過去の交友関係からの情報収集
  • 同一戸籍にいた他の親族からの情報収集

当社がご依頼をお受けするのは、多くの場合この段階からです。弁護士や司法書士の先生から、書類でたどれる限界まで来た案件をご紹介いただくことも少なくありません。

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それでも見つからないときの3つの選択肢

調査を尽くしても所在が判明しない場合、法律は手続きを前に進めるための制度を用意しています。いずれも家庭裁判所への申立てが必要です。

選択肢1:不在者財産管理人の選任

民法25条にもとづき、従来の住所または居所を去って戻る見込みのない者(不在者)について、家庭裁判所が財産管理人を選任する制度です。選任された管理人が、不在者に代わって遺産分割協議に参加します。

ただし、管理人が遺産分割に応じるには、家庭裁判所の権限外行為許可が別途必要です。また、不在者の取り分は原則として法定相続分が確保されなければなりません。管理人には報酬が発生し、その原資として予納金(数十万円程度)を求められるのが通常です。

選択肢2:失踪宣告

生死不明の状態が続いている場合、家庭裁判所に失踪宣告を申し立てることができます。宣告が確定すると、その方は法律上死亡したものとみなされ、相続手続きを進められるようになります。

種類要件死亡とみなされる時期
普通失踪生死不明の状態が7年間継続7年の期間が満了した時
特別失踪(危難失踪)戦争・船舶の沈没・震災など危難に遭遇し、その危難が去った後1年間生死不明危難が去った時

失踪宣告は、公示催告という官報等での公告手続きを経るため、申立てから確定まで1年前後を要するのが一般的です。時間はかかりますが、不在者財産管理人と違って恒久的に問題が解決します。

選択肢3:所在不明のまま調停・審判へ

所在は不明でも生死は明らかというケースなど、上記の制度になじまない場合は、家庭裁判所に遺産分割調停・審判を申し立てる方法があります。所在不明の相続人については公示送達という手続きで呼出しを行い、出頭がなければ審判で分割内容が決められます。

どれを選ぶべきか

  • 所在不明だが生存が推定される → 不在者財産管理人
  • 7年以上生死不明 → 失踪宣告(時間はかかるが根本解決)
  • 急ぐ必要があり、法定相続分での分割で構わない → 調停・審判
  • いずれの場合も、まず調査を尽くしたという記録が申立ての前提になります

なお、これらの申立てにあたっては、家庭裁判所から「どのような調査を行ったか」を問われます。調査報告書を提出できると手続きがスムーズに進むため、この目的でご依頼いただくケースもあります。

まとめ

相続人の所在調査は、時間が経つほど難しくなり、費用も膨らみます。相続登記の義務化により、放置することのリスクも大きくなりました。連絡の取れない相続人がいると判明した時点で、早めに動くことをおすすめします。

当社では、弁護士・司法書士の先生方と連携して、書類でたどれる範囲と現地調査が必要な範囲を切り分けてご提案しています。まずは現状をお聞かせください。

よくある質問

相続人の調査を弁護士に頼むのと探偵に頼むのはどう違いますか。

弁護士・司法書士は職務上請求により戸籍や住民票を取得でき、法的手続きの代理もできます。一方、住民登録地に居住実態がない場合の現地調査や聞き込みは、探偵の領域です。実務上は両者を組み合わせるのが最も効率的で、当社も士業の先生と連携して進めることが多くあります。

相続放棄した相続人も探す必要がありますか。

相続放棄が家庭裁判所で受理されていれば、その方は初めから相続人でなかったものとみなされるため、遺産分割協議に参加する必要はありません。受理されたことを示す相続放棄申述受理証明書を取得してください。

不在者財産管理人の予納金はいくらぐらいですか。

事案や管轄する家庭裁判所によりますが、20万円から100万円程度が目安とされています。不在者の財産から管理人報酬をまかなえる場合は、予納金が不要または少額で済むこともあります。正確な額は申立先の家庭裁判所にご確認ください。

調査費用は誰が負担しますか。

原則として調査を依頼した相続人の負担です。ただし、相続手続きに必要な費用として、他の相続人と協議のうえ遺産から支出することを合意するケースもあります。

相続登記の義務化で、いつまでに登記が必要ですか。

相続により不動産を取得したことを知った日から3年以内です。2024年4月1日より前に発生した相続についても、2027年3月31日までに登記する必要があります。ただし、遺産分割が調わない場合は相続人申告登記という簡易な手続きで義務を履行できます。